採用内定の法的性質

採用一般的に、採用内定によって、採用内定通知書または誓約書に記載されている採用内定取消事由が生じた場合は解約できる旨(留保解約権)の合意が含まれている使用労働契約が成立するものと解されています。したがって、内定取消は、企業による上記留保解約権の行使にあたります。

使用者による内定取消の可否は、採用内定通知書や採用内定者が提出する誓約書に記載された取消事由を参考に判断されることになりますが、一般的には以下のような場合が考えられます。
(1)内定者が卒業できなくなった場合
(2)健康状態が悪化し入社日以降の就労が困難な場合
(3)経歴詐称が発覚した場合
(4)違法行為により逮捕・起訴された場合等

内定取消しに関する判例

内定取消の判断基準について、最高裁は、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」と判示しています。

他方、内定取消しが適法か否かに関する具体的判断においては、裁判所は使用者に厳しい判断をとる傾向にあり、整理解雇に準じた検討が必要になると考えられます(整理解雇の項を参照)。そこで、経営悪化による人員削減を要する状況となった場合の内定取り消しについては、その有効性が厳しくチェックされます。裁判例では、内定期間中に研修へ参加しなかったことや、前職での悪い噂を理由に内定取消しをしたものを無効としたケースがあります。

また、使用者の恣意的な内定取消しについては債務不履行(誠実義務違反)または不法行為(期待権侵害)に基づく労働者の損害賠償請求が認められています。内定取消しがやむを得ないとされたとしても、内定からその取消しに至る過程において企業側が信義則上必要とされる説明を行わなかったことを理由に損害賠償責任が課されたケースもあります。

なお、内定取消しの場合には、解雇予告制度の適用はありません。

本採用の拒否

一般的に、本採用後は、重大な規律違反や会社の経営危機といったよほどのことがない限り、解雇するのは難しいのが現状です。そのため、本採用の前に、本人の能力や適性が社員としてふさわしいかどうかを見極めるため、試用期間がおかれています。一方、試用期間満了時点までの間は、本採用後に比べれば、雇用の保障は薄く、会社側の解雇の選択の余地は大きいということになります。

また、新卒者と中途採用者の採用では、会社に期待される能力水準が異なり、両者の試用期間の運用においては微妙な相違が出てきます。中途採用の場合、業務や役職を特定するなどし、要求される職務遂行能力等が比較的明瞭である場合が少なくありません。そうであれば、それをクリアしているのかいないかの判断は、比較的容易であるといえるため、新卒採用に比べ中途採用の場合の方が、試用期間中の解雇、あるいは試用期間満了時の本採用拒否という形をとった解雇の判断が容易であるという傾向があります。

いずれにしても、試用期間の途中で解雇したり、本採用を拒否する場合、解雇権濫用法理のチェックは受けますので、能力不足等があれば、どのような注意や指導を行ったかが問われます。

裁判例では、次のような事由が本採用拒否の正当な事由とされました。
(1)出勤率不良として、出勤率が90%に満たない場合や3回以上無断欠勤したケース
(2)勤務態度や接客態度が悪く、上司から注意を受けても改善されなかったケース
(3)協調性を欠く言動から、従業員としての不適格性がうかがえるケース
(4)経歴詐称
試用期間は教育や指導をする期間でもあるので、上記のような不適格事由があったとしても、いきなりの解雇は認められず、その期間中にどのような教育・指導がなされていたかが重要です。

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