経営難における賃金切下げ

1.有効性労働者の合意なく、就業規則の変更により、一方的に賃金切り下げなど労働条件を不利益に変更することは原則として許されません(労働契約法第9条)。

ただし、例外として、労働契約法第10条では就業規則の変更による労働条件の不利益変更の方法を定めており、変更後の就業規則の周知や、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして就業規則の変更が「合理的」なものであることを要求しています。

2.裁判例(1)賃金切下げに関する各裁判例は、以下<1>ないし<6>の要素を総合考慮して、その有効性を判断しているようです。

<1>就業規則へ明示されているか

<2>業務上高度の必要性があるか
※但し、人件費圧縮の必要性と比較し賃金減額率が大きすぎる場合には、それのみで賃金切下げが無効となりえます。

<3>切り下げ幅が月例10%以内であるか
※労基法91条は、労働者の生活保護の趣旨から懲戒事由が複数存在した場合でも月例給与からの減給額を10%以内に抑える旨規定しており、それとのバランスから、月例10%を超える賃金切下げは無効となる可能性が高くなるといえます。

<4>応分負担となっているか
※高齢者や管理職等の特定の層や特定の部門のみに不利益を課すことはできません。

<5>多数者の賛同が得られているか
※労働組合や従業員に対し、適切な時期に、適切な時間をかけて十分な説明がなされ多数者の賛同を得ているかが問われます。

<6>緩和(代償)措置があるか、暫定的であるか

(2)裁判例では、
(i)売上減少による約19億円の負債を負ったとの経営状況下において、就業規則を変更し、賃金の25%を切下げた事案において、賃金25%の切下げに合理性・必要性がなく組合への十分な説明もなされていないとして無効とされたケース

(ii)阪神大震災等の影響で経営が悪化した公益社団法人が、10事業上の1つである神戸支部の従業員のみ基準内賃金緒額を50%引下げる(3年間)という就業規則の変更を行ったという事案において、賃金切下げの必要性に比べて賃金減額率が大きく、特定の部門のみを対象にするものとして無効とされたケース

(iii)就業規則や乗務員給与規則上の根拠を欠く基本給や手当の一方的減額措置が無効であるとされたケース

などがあります。

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