賃金支払に関する諸原則

賃金労基法は、賃金が全額確実に労働者の手に渡るようにするために、賃金の支払について以下4つの原則を定めています。

1.通貨払いの原則賃金は通貨で支払わなければなりません(労基法24条1項)。これは、価格が不明瞭で換価も困難な現物支給を禁止する趣旨であり、例えば銀行振出自己宛小切手による支払も禁止されています。
もっとも、(1)労働者の同意を得ること、(2)労働者が指定する銀行その他の金融機関の本人名義の預貯金口座に振り込むことなどの要件を満たせば、賃金を労働者の口座に振り込むことも可能です。

2.直接払いの原則賃金は直接労働者に支払わなければなりません(同条項)。これは、仲介人や未成年者の親権者が賃金を代理受領して搾取をすることを防ぐ趣旨です。この原則から、仲介人等の第三者や労働者の親権者が当該労働者から賃金の受領権限の委任(代理受領)を受けていたとしても、使用者はそれらの者に労働者の賃金を支払うことはできませんし、そのような委任自体が無効となります。もっとも、それらの者に対してであっても、労働者の手足(使者)として本人の代わりに支払を受けることは適法とされています。

また、賃金債権が譲渡された場合も、使用者は譲受人に労働者の賃金を支払ってはいけませんが、国税徴収法や民事執行法に基づき預金債権が差し押さえられた場合は支払うことができます(ただし差押限度額は法令で規定されています)。

3.全額払いの原則賃金は、その全額を支払わなければなりません(同条項)。ただし、給与所得税の源泉徴収・社会保険料の控除等は法令により給与から一部控除をすることが認められています。本原則との関係で、使用者による給与債権との相殺の可否が問題となりましたが、最高裁は、使用者が労働者の債務不履行(業務の懈怠)や不法行為(背任)を理由とする損害賠償請求権と賃金債権を相殺することは、本原則の趣旨に反するとして違法と判断しました。

他方、労使間の合意による相殺については、当該相殺が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するときは、本原則に反しないとした判例があります。

4.月1回以上・一定期日払いの原則臨時に支払われる賃金・賞与等の一定のものを除き、賃金は毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません(同条2項)。これは、賃金支払期日の間隔が長くなり過ぎることや、支払日が一定しないことにより労働者の生活が不安定になることを防止する趣旨であり、年俸制の場合でも毎月定期払いをする必要があります。ただし、賞与や1ヶ月を超える期間についての手当等は、その期間で支払うことができます(同条項ただし書)。

お気軽にお問合せください!

お問合せ・ご相談

主な業務内容
【法人のお客様】
知的財産権、誹謗中傷対策、債権回収
【個人のお客様】
誹謗中傷対策、離婚、相続、債務整理・破産、労働問題、刑事事件

連絡先 お問合せフォーム