労使間の紛争の解決手段

労使紛争の解決手段労使間に紛争が生じた場合、話し合いにより解決できれば理想的です。しかし、お互いが自己の主張を述べるだけでは、なかなか歩み寄りがみられず、話し合いによる解決が困難であるケースは多くみられます。そのような場合は他の解決手段を探すべきであり、具体的には以下の手段をとることが考えられます。

1.行政による労働関係紛争解決手続き(1)労働局の紛争調停委員のあっせん
(2)仲裁

2.裁判所による労働関係紛争解決手続き(1)民事調停
(2)労働審判
(3)支払督促
(4)民事訴訟(通常訴訟・少額訴訟)
(5)民事保全(仮差押え・仮処分)

行政による労働関係紛争解決手続き【1】

1.労働局の紛争調停委員会のあっせん(1)あっせんとは、労働関係調整法等に基づき、労働者と使用者間に公務員等の第三者が入って間を取り持ち、紛争を解決するものをいいます。一部の地域の労働委員会や都道府県労働局(労働相談情報センター等)が行っているあっせん、弁護士会や社労士会によるあっせんがあります。

労働委員会や労働相談情報センター、都道府県労働局は無料で利用できるという利点がありますが、弁護士会等の労働相談と異なり、例えば未払債権の消滅時効(2年間)が迫っている場合等は、消滅時効の進行を中断する効果がない点に注意が必要です(弁護士会等のあっせんを利用した場合、あっせん手続打ち切り通知受領後1ヶ月以内に裁判を提起すれば消滅時効を中断することができます)。

(2)紛争調整委員会によるあっせん手続の流れは以下のようになります。
<1>あっせん申請書の提出
<2>紛争調整委員会による調査の開始、当事者から事前の事情聴取
<3>あっせん期日の決定・通知
<4>あっせんの実施(当事者間の話し合い促進、あっせん案の作成等)
<5>あっせん案の受託

(3)あっせんは、あくまで話し合いにより紛争解決を図るものですので、相手には話し合いに応じる義務や、あっせん案に合意する義務はありません。したがって、相手が話し合いの場に出てこなかったり(使用者側が出席を拒否するケースは4割程度あります)、あっせん案に合意しなかった場合(双方出席でも合意に至らないケースが3割程度あります)は、あっせん手続は打ち切らざるをえません。

他方、あっせん案を双方が合意すれば、和解書面を取り交わすこととなり、その内容で双方の権利義務が確定します。ただし、それだけでは強制力までは生じないため、仮に相手が合意した義務を果たさない場合は、裁判を提起して判決を獲得してから強制執行するしかありません。

なお、使用者は、あっせんの申請をしたことを理由として労働者に対し解雇等の不利益な取扱をすることはできません。

行政による労働関係紛争解決手続き【2】

2.仲裁(1)仲裁とは、紛争の当事者双方が仲裁人の判断に従うという「仲裁合意」をした上で、仲裁人が当事者の言い分を聞いて判断を示す手続きです。仲裁の大きな特徴としては、当事者側が判断者を指名する手続きであるということがあげられます。

「仲裁合意」は、労働契約締結の前後いずれでもできます。ただし、使用者側による恣意的な仲裁人の指定を防止するため、労働契約時に仲裁人を指定することは禁止されています。通常は、紛争が具体化した後に当事者の一方から仲裁による解決の申出がなされ、仲裁合意書が作成された上で仲裁手続きに入ることが多いようです。
また、各地の弁護士会では、「仲裁センター」、「紛争解決センター」等の名称で仲裁手続きを行っており、労働者側・使用人側いずれも経験している弁護士を仲裁人候補者として推薦してもらうこともできます。

(2)仲裁手続きの流れは以下のようになります。
<1>仲裁の申立て
<2>(仲裁合意がない場合)仲裁予定者の指名、(仲裁合意がある場合)仲裁人の選任
<3>当事者への通知
<4>和解案提示、和解期日
<5>和解成立、もしくは仲裁人による仲裁判断   

(3)仲裁人が示した仲裁判断を当事者双方が受託すれば、仲裁人は、「仲裁判断書」を作成します。この仲裁判断は、確定判決と同様の効力を有していますので、仮に相手が仲裁判断に基づく義務を履行しない場合は、裁判所から執行決定を得て強制執行をすることができます。仲裁手続きに重大な瑕疵や法令違反がない限り執行決定がなされることになります。

また、相手が仲裁判断の結果に不服があった場合は裁判所に仲裁判断の取消しを求めることができます。しかし、仲裁手続きや仲裁内容に法令違反がなければ容易に取消しが認められることはありません。

このように、仲裁はその結果が両当事者を当然に拘束する調整手続きであることから、実際にはあまり利用されていないようです。

裁判所による労働関係紛争の解決手続【1】

1.民事調停(1)民事調停とは、裁判所に対して話し合いによる解決の仲立ちを求める手続きです。会社の住所地を管轄する簡易裁判所(あるいは当事者が合意で定める簡易裁判所・地方裁判所)に申立てると、その事件について裁判所は裁判官と民間人から選任される民事調停委員により構成される調停委員会を設け、調停委員が双方の主張を聞き、説得をするなどして解決を図ります。

合意すれば、調停調書が作成・交付されます。調停調書は裁判所による判決と同様の効力を有していますので、仮に相手が合意内容に従わない場合は、裁判所から執行決定を得て強制執行をすることができます。

なお、裁判所は調停が成立しない場合で相当と認めるときは、民事調停委員の意見を聞いて調停に代わる決定をすることができ、当事者から2週間以内にその決定に対する異議がでなかった場合には、同決定は確定判決と同一の効力を有します(異議があった場合は決定の効力は失われます)。

(2)民事調停手続きの流れは以下のようになります。
<1>民事調停の申立て
<2>当事者への通知
<3>調停期日
申立人・相手方それぞれの言い分を順番に聞くケースが多いですが、双方から同時に聞くケースもあります。また、合意に至る可能性がある間は調停が続きますので、10回近く続くようなこともあります。
<4>調停調書の作成、もしくは調停に代わる決定

裁判所による労働関係紛争の解決手続【2】

2.労働審判(1)労働審判は、個別労働紛争に関して、裁判官と労働関係の専門的な知識を有する者(労働審判員)が審判委員会を構成して事件を審理し、解決案をあっせんして当該紛争を解決する制度です。労働審判員は、労働組合等の労働者側の団体、経営者協会等の経営者側の団体から労働事件に詳しい専門家が一名ずつ選ばれることになっており、公平性が保たれています。

労働審判は、調停(審判委員会を交えた当事者の話し合い)の成立による解決の見込みがある場合はこれを試みるとされており、その解決に至らない場合に労働審判を行うこととなります。

労働審判では、使用者に対する民事上の請求をすることができます。例えば、解雇無効確認、出向・転籍・懲戒処分の無効確認、未払賃金請求等をすることができます。また、労働審判の申立先は地方裁判所で、通常、3回以内の審理で終わるという簡易迅速な手続きとなっています。

(2)労働審判手続きの流れは以下のようになります。
<1>労働審判の申立て(労働審判の申立書の提出)
<2>相手方への申立書の送達
<3>期日(原則3回以内)
<4>調停、調停が成立しない場合は労働審判

裁判所による労働関係紛争の解決手続【3】

3.支払督促(1)支払督促とは、裁判所書記官から相手に支払いを命ずる書面を出してもらう制度(裁判所書記官の処分)をいいます。相手が支払督促に何らの反応もしなかった場合は、そのまま強制執行をする手続きに移行できます。裁判所から請求が来るため、支払う義務があることを認識している使用者に対しては有効な手段となりえます。

もっとも、支払督促は債務者の住所地の管轄裁判所にしなければならず、また、相手方が支払督促に対して異議を述べた場合は、当該管轄裁判所において通常訴訟の提起があったものとされますので、債務者の住所地が遠隔地である場合等は注意が必要です。

(2)支払督促手続きの流れは以下のようになります。
<1>支払督促の申立(支払督促申立書の提出)
<2>債務者へ支払督促の発令・送達
<3>債権者が仮執行宣言の申立て
<4>仮執行宣言付支払督促の発令・確定
※<3>・<4>は債務者から異議がない場合

裁判所による労働関係紛争の解決手続【4】

4.通常訴訟(1)通常訴訟は、裁判所に訴訟を提起して、裁判所の判断で事件の決着をつけるというものです。訴額が140万円以下の場合は簡易裁判所が管轄となり、140万円超の場合は地方裁判所が管轄となります。また、訴額が60万円以下で未払賃金などの金銭問題の場合には少額訴訟を利用することができ、原則1回の審理でその日のうちに判決が出ます。

労働訴訟も民事訴訟の一部ですが、労働訴訟の場合は、労働者と使用者の資料収集能力の差を考慮し、労働者の立証責任が一定程度緩和される傾向がありますので、労働者側に有利な面もあります。とはいえ、代理人を立てずに訴訟を提起する場合は、自力で必要な証拠資料をどれだけ集められるかが勝敗のポイントとなります。

(2)民事訴訟続きの流れは以下のようになります。
<1>訴えの提起(訴状の提出)
<2>相手方への訴状の送達
<3>相手方から答弁書の提出
<4>口頭弁論期日(複数回)
<5>判決言渡し、もしくは和解

裁判所による労働関係紛争の解決手続【5】

5.少額訴訟(1)少額訴訟とは、60万円以下の金銭請求をする場合に、簡易裁判所が1回だけの審理で判決を出してくれる簡易迅速な訴訟手続きをいいます。期日が1回で終わるため、証拠資料が十分に整っている場合には有効であり、分割払いや支払猶予も含んで判決できるという利点もあります。

他方、1回の期日しかなく、証拠調べの対象も即時に取り調べることのできるものに限られることから、証拠資料が十分に整っていない場合は、不本意な和解勧告に応じざるをえないこともありますので注意が必要です。また、判決に対して当事者から異議が述べられた場合は、通常の民事訴訟に移行することになります。

(2)少額訴訟手続きの流れは以下のようになります。
<1>訴えの提起(訴状の提出)※裁判所に定型の訴状用紙が備え付けられています
<2>相手方への訴状の送達
<3>答弁書の提出
<4>期日(1回)、即日判決、もしくは和解

裁判所による労働関係紛争の解決手続【6】

6.民事保全(仮差押え、仮処分)(1)仮差押え
民事訴訟を提起しても、解雇されている場合などは、訴訟をしている間は無収入で生活費も不足することがありますので、暫定的に賃金の支払いを命じてくれる裁判手続きとして、仮差押えという民事保全制度があります。

仮差押えとは、金銭債権の将来の強制執行を保全するために、暫定的に債務者の財産を仮に差し押さえる手続きをいいます。仮差押えの手続きでは保証金を法務局に供託する必要があります。保証金の額は裁判官が決定しますが、被保全権利(保全価額)の13割程度が目安となります。

(2)仮処分
また、会社から解雇された場合などは、社員としての身分を確認するために仮の地位を定める(地位保全仮処分)とともに、賃金の仮払いを命ずる仮処分(賃金仮払仮処分)を申立てることができます。

仮処分とは、正式な裁判で結論が出るまでに現在の状態を維持したり、財産の処分を禁止する手続きをいいます。労働関係紛争において圧倒的に多い類型です。

仮処分手続きの流れは、以下のようになります。
<1>仮処分の申立て(仮処分申立書の提出)
<2>審尋期日または口頭弁論期日
<3>仮処分命令

お気軽にお問合せください!

お問合せ・ご相談

主な業務内容
【法人のお客様】
知的財産権、誹謗中傷対策、債権回収
【個人のお客様】
誹謗中傷対策、離婚、相続、債務整理・破産、労働問題、刑事事件

連絡先 お問合せフォーム